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最高裁判所第二小法廷 平成元年(行ツ)114号 判決 1990年1月22日

大阪市福島区野田四丁目一番四一号

上告人

株式会社 入船

右代表者代表取締役

長﨑功祐

右訴訟代理人弁理士

佐藤英昭

大阪府吹田市山田西四丁目八番三号

被上告人

株式会社 小僧寿し本部

右代表者代表取締役

山木益次

右当事者間の東京高等裁判所昭和六三年(行ケ)第二八八号審決取消請求事件について、同裁判所が平成元年六月二七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人佐藤英昭の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、独自の見解に立って原判決を論難するか、又は原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島昭 裁判官 香川保一 裁判官 奥野久之 裁判官 草場良八)

(平成元年(行ツ)第一一四号 上告人 株式会社入船)

上告代理人佐藤英昭の上告理由

第一点、原判決には、商標登録無効判断の基準時に関する法律解釈を誤った違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすこと明らかである。

一、原判決は、その二1、において、「商標登録出願に対する登録査定に当り、商標法第四条第一一号の登録要件の存否は、同査定時を基準として判断するのであるから(同条第三項)、登録無効事由の存否、即ち右の登録要件の定めに違反して誤って登録査定がなされたか否かを判断する商標登録無効審判手続においても、その判断の基準時を登録査定時とすべきは当然である。」と判断している。しかしながら、商標登録無効か否かは、ひつ竟上告人の引用商標と被上告人の本件商標が同一又は類似するか否かにかかっているのであって、その類否の判断は、登録査定時はもとより、その後の審決時までの事情をも加味すべきものであることは、次の判例により明らかである。

1.一般社会における取引の実情は常に推移変遷し、過去における判断、措置が現在においても常に適切妥当であってこれに従わなければならないものではないから、商標の類否の判定の如きも、常にこの取引の実情の推移に応じ、これを検討是正することを怠ることはできない(東高判昭三二・一二・二四、昭三二(行ナ)二八)。

2.「本願商標と引用商標との場合についてみても(本願商標につき登録出願がなされた日時よりも後のことではあるが)、引用商標がテレビや新聞の広告により盛んに宣伝せられ、審決当時においては、特に台所用洗剤の商標として、取引者、需要者間に広く認識されていた」、「本願商標と引用商標との類似を判断する場合、前記の周知性を含め登録拒否の判断は審決時になさるべきである」(東高判昭四三・三・一四、昭四一(行ケ)七四)。

3.本願商標は、おそくとも審決がなされた昭和五七年八月頃までには、特定の業者が製造販売する商品果実飲料を示す商標として、熊本県を中心に全国にわたって取引業者及び一般需要者に広く認識されるに至った(東高判昭五九・一〇・三一、昭五七(行ケ)二一三)。

4.判例ではないが学説として「登録商標の類似範囲は時とともに変遷することがあり、登録時に固定するものではないから、出願された商標が他と類似するか否かは、出願された商標の、登録または拒絶の査定または審決がなされる時期における事情を基準としてなされるべきものである」(網野誠著商標(新版)三五七頁)。

二、被上告人は、本件商標の出願日である昭和四八年一月二七日以前から、小僧寿しの販売のため本件商標を使用し、登録査定時である昭和五一年当時、既に本件商標は、一般取引者、需要者間において、「小僧寿し」の観念、称呼が生じていたが、被上告人はその後審決当時までの間、なお大々的に広告、宣伝した結果、右観念、称呼がより直感的に明確になった事実を上告人は主張したのであるが、原判決は、前記のとおり登録査定時における類否を認定したにとどまり、その後の事情を全く考慮に入れていないことは、明らかに前記判例に違反するものであり、その違反は結局、法令の解釈適用を誤ったことに帰するから、この点において、原判決は破棄されるべきである。

第二点、原判決は、商標の称呼、観念の判定に当り、一般基準を判示した判例に違反した違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすこと明らかである。

一、原判決は、「小僧」の語義について広辞苑を引用し、その意味を詮索して本件商標の称呼、観念を認定しているが、その商標がいかに称呼、観念されているかは、取引者及び一般需要者の立場に立って考えるべきことであり、小僧の意味とか、図形の意味とかを特に取たてて詮索するほどの重要性は存しない。本件商標は、それ自体単独に使用されておらず、全国的な多数のチェーン店において、商品名と出所名が殆んど同じである「小僧寿し」なる文字を常に本件商標の周辺に配していることから(甲第五-一六号証)、一般取引者、需要者は、本件図形から直ちに「小僧寿し」を観念して称呼するに至っていることは現実的事実である。また被上告人においても、本件商標を小僧寿しの商標として全国的大規模に使用するからには、少なくとも「小僧」を表わす図形を用いて商品を象徴せしめようという意図があったことは、その代表者の著書(甲第四、一九号証)からも十分にうかがい知ることができるのであつて、本件商標は、登録査定時においても、また審決時においてはなお更、著者の意図どおり、一般世間においても「小僧寿し」と観念、称呼せられるに至っている。

二、この点に関し、「ブルドック」に関する判例を引用すると、「ある商標からブルドックの称呼観念が生ずるか否かを判定するに当っては、一般世人が、直ちにこれをブルドックと判断するだけの特徴をその商標が備えていれば足り、ブルドックの細部の特徴を熟知しているものが、その図形の動物を専門的に厳密に分析して判断した場合の結果は、これをそのまま簡易迅速に行なわれる取引上、商品の出所を指標し、その誤認混同を避けるために用いられる商標の称呼観念の判定について採用することができない」(東高判昭三六・七・二五、昭三五(行ナ)六四、六五)。従って本件商標も、一般世人がその指定商品から直ちに「小僧寿し」と判断するだけの特徴を備えていることは明らかであって、「小僧」の専門的意味を詮索してその称呼観念の判定について用いることは右判例に反する。原判決はこの点についても判例違反ないし事実の誤認があり、その違反誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点についても破棄を免れない。

第三点、原判決は審理不尽ないし事実の誤認があり、その誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかである。

一、原判決は、本件登録査定時を基準として、本件商標と引用商標との類否を判断すれば足りるとしているが、上告人が提出している甲第四号証以下の証拠によって、登録査定時において被上告人の本件商標が、いかに一般世人に理解せられ称呼観念されていたかについては審理が不尽であり、その当時の本件商標の周知性について判断がなされていない。

二、そして単に本件商標の構成自体からいかなる観念、称呼を生ずるかを検討すれば足りるとしているが、商標の観念、称呼は、一般取引者、需要者からみていかに観念称呼されるかが判断の基準になるのであって、原判決は、この点について、商標の観念、称呼する立場を誤った事実の誤認があり、その誤認は判決に影響を及ぼすこと明らかである。

以上の理由により、上告人は上告の趣旨の如き判決を求めるため、本上告に及んだ次第である。

以上

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